最高裁判所第三小法廷 昭和35(オ)301 判決
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人大塚守穂、同大塚重親の上告理由第一点について。
原判決がその理由中に判示した建物部分と判決主文において明渡を命じた建物部
分とは同一のものであることは、原判決を通読すれば、疑を容れない。
論旨は、畢章、原判決を正解せずしてこれを攻撃するに帰するものであるから、
理由がない。
同第二点について。
上告人が本件建物中(ハ)の部分について施した工事は、すべて、改良工事であ
つて、右部分の保存に必要な工事とはいえない旨の原審の認定判断は、これに対応
する原判決挙示の証拠に照し是認し得られる。右認定判断に、所論の如き社会通念
違反の事迹を見出し得ない。論旨中、右判断に右所論の如き違法がある旨主張する
部分は、結局、原審の裁量に委ねられた証拠の取捨判断及び事実の認定を非難する
に帰するものである。
その余の論旨は、昭和三三年三月二五日附準備書面を陳述したことが口頭弁論調
書に記載せられて居らないけれども、上告人がこれに記載せられて居る工事費の金
額、内容、内訳を同年九月二日附準備書面に基き口頭弁論において陳述して居る以
上、前記三月二五日附準備書面を陳述したものとみなし、これを釈明し、判断すべ
きものであるにも拘らず、原審がこれをしなかつたから、これに判断遺脱の違法が
ある旨主張する如くである。�
しかしながら、所論準備書面の双方に記載せられた事項が相まつてはじめて一箇
の主張としての意味を持つものであるか、或は後の準備書面に記載せられた事項が
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当然前の準備書面に記載せられた事項を前提として居るかであれば格別、所論準備
書面の双方に記載せられた事項は、その何れにも当らないものと認められ、而も後
の準備書面に基いてなされた原審口頭弁論における陳述により、論旨指摘の事項に
関する主張が明確にせられて居るのみならず、原審口頭弁論において、右三月二五
日附準備書面に基き陳述せられた事迹は、全くないのであるから、原審がこれにつ
き釈明をなす義務はなく、また、それに記載せられた事項につき判断をなす必要も
ない。したがつて原審の判断に所論の違法があるとはなし得ない。
論旨は、すべて、これを採り得ない。
同第三点について。
原告が被告に対し建物の無条件明渡を求める訴を提起した場合、金銭の支払を受
けると引換に建物を明渡すことを命ずる判決は、原告にとつても一部敗訴の判決で
ある。論旨は、原告である被上告人にかかる一部敗訴の判決を求める意思はないと
主張するけれども、当事者にして、全部勝訴の判決が得られないならば、全部敗訴
の判決を求める意思を有するが如きことは、通常、考えられない事例である。本訴
において、原告である被上告人がかかる意思を以つて申立をした形迹は、全記録を
通じて全くこれを認め得ない。
論旨は、また、被上告人が本件有益費の償還は増加額によるか、上告人の支出額
によるかについて選択権を行使して居らないから、原判決が有益費の償還額を認定
したのは違法であると主張する如くである。しかしながら、本件有益費の償還額が
確定せられなければ、上告人の留置権の抗弁は、理由がないこととなり、したがつ
て、上告人に対し、本件建物を無条件にて被上告人に明渡すことを命ずる判決が言
渡されることとなるから、この主張は、結局、上告人に不利益な判決を求めること
に帰着するのであつて、上告適法の理由とならない。
論旨は、更に、係争建物についての留置権の抗弁が理由あるときは、当該建物の
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明渡の請求を棄却すべきものであるにも拘らず、原審においてこの留置権の抗弁を
理由があるとしながら、本件建物の明渡請求を認容したのは違法であると主張する。
しかしながら、当裁判所の判例(昭和三一年(オ)第九六六号同三三年三月一三日
第一小法廷判決、集一二巻三号五二四頁、昭和三〇年(オ)第九九三号、同三三年
六月六日第二小法廷判決、集一二巻九号一三八四頁)の示すところによれば、物の
引渡を求める訴訟において、留置権の抗弁を認容する場合には、引渡請求を棄却す
ることなく、その物に関して生じた債権の弁済と引換に物の引渡を命ずべきもので
あり、この判例は維持すべきものである。したがつて、この判例と同旨である原審
の所論判断に所論の違法はない。
論旨は、すべて、これを採り得ない。
よって、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 石 坂 修 一
裁判官 河 村 又 介
裁判官 垂 水 克 己
裁判官 五 鬼 上 堅 磐
裁判官 横 田 正 俊
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